11/23(土)音二郎と唐十郎〜その④
左上の方に映っているのが、新聞記事の切り抜きです。
昨日は『下谷万年町物語』のあらすじを紹介しました。
そう。とにもかくにも「警視総監の帽子」がキーアイテムなのです。
警察に睨まれて取締りを怖れるオカマ軍団としては、
何としてもこれを取り返して一刻も速く詫びを入れる必要がある。
一方、洋一の所属していた劇団「軽喜座」は、
オカマたちによる警視総監暴行事件をいち早く舞台化し、
興行で一発当てようと新作、その名も『娼婦の森』を構想中。
もう稽古まで行っている。
その二勢力の向こうにまわして誕生した「サフラン座」は、
オカマ軍団の捜索をかわしながら、「軽喜座」に合同公演を持ちかけます。
言わずもがなの条件は、洋一の演出、文ちゃんの劇作、キティ瓢田の主演という三本柱。
すでにお気づきと思いますが、
これらは一つの公演における屋台骨であり、
芝居づくりの肝にして一番おいしいところなわけです。
ちょっと前まで小道具係だった洋一にこんな条件を持ちかけられれば、
先輩劇団として鼻で笑って蹴飛ばすのが世の常ですが、
軽喜座はこれを呑むことになる。
何故か?
ひとえに「警視総監の帽子」をサフラン座が握っているからです。
この本物の帽子を舞台にかければ、
あれが噂の帽子かと、人々が劇場に押しかけるのは間違いない。
ここに、日清戦争帰りで本物の軍服を舞台に上げた音二郎的、唐十郎センスが炸裂します。
ちなみに、この警視総監暴行事件は昭和23年に本当に起こった実話で、
『下谷〜』の1幕には、背景に当時の新聞記事がデカデカと投射され、
子どもの文ちゃんが滔々と事件の様子をまくし立てるという、
滑稽かつシリアスな名シーンがあります。
きっと、当時8歳だった唐さんにとって、
町内で起こった大事件として、記憶に焼き付けられていたんでしょうね。
確かに、警察権力の長たる警視総監がオカマ軍団に襲われ、
挙句、権力の象徴たる制帽を奪い取られるというのは、
現在では考えられない、ほとんどテロリズムに相当する大事件に違いありません。
全体に牧歌的なところのある『下谷〜』は、
どちらかといえばこのシリアスさをきちんと伝えるのが難しいのですが、
こう書きながら、今度やるんだったら、ということをついつい考えてしまいます。
それはさておき、『下谷〜』はやっぱり劇団や演劇人についての物語ですから、
時に寺山さんとケンカし、時に拳銃をぶっ放しながら衆目を集めてきた唐さんの、
文化的スキャンダリストとしての特性が、物語にも溢れています。
川上音二郎のことを唐さんは意識していたのか、いつか尋ねてみたいところです。

