4/29(祝月)『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』本読みWS 最終回
↑イングマール・ベルイマン『第七の封印』のラストシーンより。
当時の唐さんは、よく映画に霊感を得ていたということでしょう!
第6回にして最終回です。
昨晩、ここ一月半かけて読んできた
『腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇』が完結しました。
忠太郎と美少年(=腰巻お仙)、+かおる。
“母”という存在をめぐる若者たちの最後の対決をレポートします。
まず、袋小路病院を忠太郎が訪ねてきます。付き添いはお春。
袋小路の手引きによって忠太郎の前に包帯に巻かれた母が運ばれて
きますが、いざ母を前にして忠太郎の呼びかけは振るわず、
空回りするばかり。結局、母が忠太郎に応えることはありません。
次に、3幕で出会った美少年が登場し、母に語りかけます。
『新諸国物語』オープニングテーマをアレンジした劇中歌
『あんたが死んだら』が披露されるのはこの場面です。
美少年の呼びかけは、母親への愛憎に満ちています。
すると、母はか細く何事かを言い、こときれます。
母の死を告げる美少年に忠太郎が呆然としたところへ、
かおるが帰ってきます。なんと、かおるはこの短期間に
4人の子を堕胎した母として、やはり包帯に巻かれ弱りはてた
姿で現れます。そこで、堕胎児たちの不思議な挨拶が展開します。
この間、忠太郎が亡き母の遺体を調べると、
その身体は石膏に過ぎず、しかもその腹部には、やはり石膏の
子供の頭が3体も入れられていました。まさに、3幕で
美少年がまくしたてた『母体構造概論』が現実化した姿が露わに
なります。してみると、先ほどの美少年と母との会話は、
実は美少年(=腰巻お仙)を演じる女優による腹話術だったかも
知れない。ここまでして忠太郎のなかの母への恋慕を打ち砕こうと
する、美少年の執念のなせる所業です。
結果、忠太郎は錯乱し、今度はかおるを母だと言い出し、
彼女に詰め寄ります。すると、短期間のうちに堕胎を繰り返した
かおるの、変わり果てた容貌が明らかになる。
美少年が忠太郎を、袋小路が気ままな少女だったかおるを
破壊した点において、青春の残酷さが極まります。
そして、少年による母への憧憬、少女による母になることへの夢が
打ち砕かれるなかに、美少年に扮していたお仙は正体をあらわし、
堕胎児たちを連れて笛を吹きながら去ります。
『ハーメルンの笛吹き』、ベルイマン『第七の封印』ラストの
悪魔を思わせるシーンとなり、この物語は終幕します。
「義理人情」の初手「いろはにほへと」である親子の情愛は
今やこっぱみじんになる。これが、紅テントを立てて初めて
行った公演の演目でした。はっきり言って暗い。青春の暗黒です。
考えてみれば、この台本は、初期から描かれてきた唐さんの
暗部の集大成でもあると言えます。なぜなら、紅テント開発以前に
書かれた最後の劇作であるとも言えるからです。
テントの発明によって、唐さんは勢いを得ます。
エンディングは華やかになり(『鐵假面』『唐版 俳優修業』のような
例外はありますが)、やぶれかぶれの希望を叩きつけるような
テント演劇による狂騒の終幕が完成していきます。
1〜2幕であれだけ明るかった本作がいかに3幕以降に着地したか。
昨晩はそれを味わってもらいました。
次回からは『腰巻お仙 振袖火事の巻』全6回の本読みを始めます。
テントが唐十郎をどう変えたのか、それを体感できる1ヶ月半を
約束します!

