2/8(月)コインロッカーと機動隊
唐さんは本歌取りの名人。
他人のアイディアを見事に自家薬籠中のものとし、
唐十郎流に生まれ変わらせます。
目下、ワークショップで取り組んでいる『盲導犬』も、
それまでに唐さんが見聞きしたものをうまく取り込んでいます。
これは前回のワークショップで話したのですが、
例えば、コインロッカーという舞台装置。
初演が行われたアートシアター新宿文化はそもそも映画館ですから、
奥行きが4メートルという超手狭なステージです。
そこに、転換なしのセットとして、新宿駅のコインロッカーが構想された。
これは、明らかに1969年に初演された『真情あふるる軽薄さ』の
ラストシーンに想を得たものです。
階段だけのセットで繰り広げられる同演目の終幕、
集団意識に染まらない反骨の若者を打ち据えるために、
場内には機動隊員が乱入します。(もちろん、役者が演じた偽者)
すると、「振り落とし」といって舞台背景の大幕が落ち、
ジェラルミンの盾がズラッと並んだ壁面が現れます。
細部を見るまでもなく、それはどこか手仕事の雰囲気の残る
荒っぽい表面なのですが、それがきっと、
かえって迫力に結びついたことでしょう。
一面に、シルバーの長方形が連なった壁面が
ギラリと光る光景が繰り広げられます。
そしてこの景色が、4年後の『盲導犬』に結実します。
そういえば、1979年初演の『近松心中物語』の池や遊郭をヒントに、
唐さんは『下谷万年町物語』の瓢箪池と長屋の連なりを描きます。
蜷川さんから受け取ったものを増幅して蜷川さんにお返しする。
これぞ演出家に対するあて書き。実に美しい関係です。

