5/29(土)失恋うらみ節
『ビニールの城』観劇後の余韻が尾を引いています。
自分の中で『秘密の花園』と『ビニールの城』こそ、
唐十郎の恋愛劇の真骨頂だと思っています。
もちろん、他の作品でも少なからず男女関係が描かれますが、
その純度において、壊れやすい繊細さにおいて、
やっぱりこの二つだと思う。
来週末にもう何回か唐組東京公演が残っていますが、
やはり二幕、ビニールの幕越しに主人公二人が
互いを求め合いながらもついにすれ違ってしまう場面こそ、
全編の白眉であるだけでなく、唐さんが描いてきた
あらゆる同種のシーンの、最高の仕上がりです。
と、ここまで書いてきて、前に唐さんから聞いた
かつての恋愛話を思い出しました。
10代の頃の唐さんはとにかく内気、
後にあれだけのことばが吹き出すことなど想像もできないほど、
寡黙な少年だったそうです。
しかし、一方で、心の内にはいつも様々な妄想が駆け巡っていたようで、
ある時、近所に住んでいた年上の女性を好きになってしまったのだそうです。
しばらく悶々とした後、ついに一念発起した大靍義英少年は、
なけなしの勇気を振り絞って告白を決行。想いを伝えました。
ところが、返ってきた答えはNO。
「よっちゃんには、あたしなんかよりきっと善い人が現れるよ」
そう言われたそうです。
「あの時は刺し違えてやろうかと思った」と唐さんはそのうらみを語りました。
このあたりの唐さんのセンスは、名作短編小説『恋とアマリリス』に明らかです。
ちなみに「善い人」といえば、思い出すのは『盲導犬』。
ヒロイン銀杏の父親が青年タダハルを評して蔑んだことばがこれなのですが、
あれには、唐さんの個人的なショックが尾を引いているに違いありません。

