5/4(祝月)お岩さんと小道具
↑我が家の夏の平和を守ってくれるクーラー。
このありがたいメーカーが追い込まれているのではないかと心配です。
唐さんの芝居では、小道具が重要な役割を果たします。
他にも道具を重んずる劇作家や戯曲はあるでしょうが、
明らかに唐さんの”物(ブツ)”に対する偏愛は上位に入ると思います。
私たちがこれを痛感したのは、
かなり初期に上演した『ジョン・シルバー』でした。
あの芝居には、まるで”一人一品”という感じで、
それぞれのキャラクターに道具が授けられています。
登場人物たちは揃いも揃って、その小道具に向けた過剰な愛を
モノローグの中で延々と吐白するというスタイルで全編が進行する。
『ジョン・シルバー』を黎明期に選択したのは
ただの偶然だったのですが、小道具の扱いを身に付けるという意味で
早期にあの作品に取り組んだことは幸運でした。
どのように小道具を扱い、観客に見せ、
それにせりふを浴びせて効果を発揮させるのか。
あの芝居はそういった意味で、唐十郎作品における方法序説的な
位置を占めていると実感しています。
一昨日、「お岩さん」をこのゼミログのタイトルにしましたが、
彼女の名前から連想して、ふと思い出したことがあります。
唐さんとは、折に触れて『東海道四谷怪談』の話をしてきました。
「戸板返し」で有名な「隠亡堀(おんぼぼり)」をはじめとして、
唐さんにはいくつか好きなシーンがあるそうなのですが、
主人公の伊右衛門がお岩や赤ん坊との家族関係を破綻させていく場面も
大いに好みだとおっしゃっていました。
そして、ここに重要な小道具が登場します。それは”蚊帳”。
不実な夫・伊右衛門の横暴に耐え続けるお岩が、
それだけは質屋に持っていくのをやめてくれと食い下がるアイテムが、
この”蚊帳”なのです。
当時、いかに世界の他の都市と比べて清潔を誇った江戸とはいえ、
現代のコンクリート社会からすれば、虫の発生は比ではなかったでしょう。
当然、クーラーも扇風機も網戸もない。
赤ちゃん抱えた母親にとって、夏場に”蚊帳”を欠くことは即地獄を意味します。
この場面、”蚊帳”という道具をクローズアップすることで、
鶴屋南北は家庭の破綻を切実に語らしめたわけです。
唐さんは、こういう小道具が好きなのです。
時に道具は、それを取り巻く人間模様や生活、生きてきた歴史までをも背負って、
せりふ以上の雄弁さを発揮します。
ここ数日の暑さ、今年の夏はどうなってしまうのでしょうか。

