9/14(水)用意していた!
↑テイト・モダンの前に掲げられたバナー
「用意していた!」
これは、唐さんの作品の中でも80年代の傑作『ビニールの城』二幕に
出てくるせりふだ。相棒である人形「夕顔」を探し続けていた
腹話術師「朝顔」の前に、水槽に封じられた夕顔が現れる。
水に潜って助けなければ!
すると朝顔はポケットから水中眼鏡と水泳キャップを取り出す。
こういう事態を予測し、彼はあらかじめ完璧な用意をしていたのだ。
先のせりふはここで出てくる。なぜこんな周到な準備ができるのか。
もちろん、芝居だからだ。すべて唐さんの思うまま。
しかし、このせりふを言うことで、劇の進行とともに緊迫感に
包まれていた客席に笑いが起きる。
唐さんの、実にズルい手である。
目下、ロンドンはエリザベス女王に染まっている。
至るところに彼女の写真を見る。
娘時代、王位を継いだ頃、貫禄に満ちてきた頃、皆が見慣れた晩年。
それにしても、本当に、驚くべきスピードで、
これらの遺影はあっという間にロンドン中に溢れた。
店先で、バスの停留所で、地下鉄の駅で・・・。
もっとも良いなと思ったのは、テムズ川沿いのテイト・モダンだ。
現代美術を専門に扱うこのギャラリーのバナーも、
いつの間にか、あっという間に女王になっていた。
亡くなってからデザインし、確認し、印刷したのでは
絶対に間に合わない速さで流布したのを見るだに、この国がいかに
女王の死に備えていたのか体感することになった。
不謹慎だから誰も表立っては言わないけれど、
ちゃんと用意してきたのだ。いつの頃からかは分からない。
けれど、実に鮮やかな手口だと思った。
葬儀が9月19日(月)に決まり、その日に予約していたライブは
キャンセルになった。

